またの冬が始まるよ


二人なのにぼっちは いやいや



今でも相変わらず、イエスの不意を突くように
断食とか座禅の修業のお仲間、
深い瞑想に入ってしまうことがあるブッダであり。
思いついたそのままというノリでやっちゃうらしいので、
いちいち宣言されないまま突入されちゃうイエスとしては、
揺すぶっても動じないほどの集中力の物凄さに太刀打ちできぬ以上、
本人が自分で“戻って”くるまで、
ちょっとオシャレなルームライトと思うしかなくて。(おいおい)
…じゃあなくて、
出掛けていた隙に思いつかれて実行に移されると、
イエスへの食事の作り置きとか いろいろと準備も万端なのは助かるが、
それはそれで置いてけぼり感も結構強く。
それとはまた別の“置いてけぼり”にも堪えるケースは多々あるようで。

 「いつもなら珍しくもついつい私より寝坊しちゃうのが可愛い、
  うっとりヌクヌクの朝にまで、
  そういうモードに突入しないでよぉ〜〜〜。」

 「ご、ごめんごめん。///////」

つか、そういう言い方はちょっと…と、
伴侶様が昨夜の続きの朝だというのを匂わせる仔細、
どさくさ紛れに口にした下りを
きっちり把握出来るところが単なる寝起きとは一味違う。(こらこら)
そんな瞑想状態から帰還した途端、半分泣きかけのイエスからわぁんと抱き着かれ、
こちらもまた不意打ちを食らったような状態のまま、
わぁあと心臓が躍り上がりかかっている如来様、
そのまま素直に謝ってしまった立川の朝だったりするのだが。

 「キミの食事の作り置きをしないままなのは困るよねぇ。」
 「…そうじゃなくて。////////」

私が狼狽えるのが そこのところに困ってだけみたいに言わないでと。
今度はプライドをいたく傷つけられたという上目遣いになってしまったイエスなのへ、
ああしまったとまたまた慌てるという、
天然さん同士の意図しないノリツッコミの応酬を一通り済ませてから。(笑)

 「じゃあご飯の支度するね。」

今日のは本当に、
ふっとそんなモードにスイッチが入ってしまっただけだったようで。
まだ手付かずだった常の日課へ戻ろうと、
こちらも敷かれたまんまだった布団の上から立ち上がりかかる彼なのを、
待った待ったと二の腕掴んで、もとえ、二の腕に掴まってイエスが引き留めて。

 「ねえ、どうして今朝の起き抜けに思いついたの?」

そこをどうしても知りたいと、
譲れないらしいヨシュア様が珍しくも粘る。
イエスだとて力いっぱいぶら下がったわけでなし、
たとえそうされたとて、その程度は大した負荷にはならないブッダだったが。
何だなんだと自然な反応、
顔をそちらへ向けて、見下ろした視野に入った、
話を聞いてと哀訴するよにたわめられた玻璃色の双眸には

 “……そ、そんな切ないお顔をするなんて。//////”

そもそんなつもりなんてなかったそれ以上に、抗いようがなかったようで。
上げかけていた腰を寝床の上へと据え直し、
足もきっちりと正座に直した辺り。
珍しくもブッダの側が
“今から叱られる幼子”みたいに神妙な様子を覗かせていたりする。
イエスより随分と先に目覚めたのだろう、
いつもなら枕元を埋めるほどの豊かさで
ほどけたままになっている深色の髪も、
すっきりしゃんとした螺髪に結い直されていて。
そうなったことであらわになっている
Tシャツの襟ぐりからうなじへのまろやかなラインに気がついたイエス。

 “おおう、なんてなまめかしい ////////”

…なんて。
こちら様もやっと心持ちが落ち着いたからこその いつものペースというものか。
だって昨夜はそりゃあ甘い甘い夜を過ごしたのだし…と、
これこそ本来の蜜夜の後朝とばかり、
お揃いの神妙さを装いつつも、実は 微妙なよそ見や横道へ逸れかかっておれば。
そのなまめかしい肩をややすぼめるように恥じ入って、

 「だって たまにやっとかないと戻ったときに大丈夫かなって心配で。」

いつかも訊いた言い訳を繰り出すブッダであり。
やりすぎはよくないとするのが“中道”の精神ではあるけれど、
厳しい精神修養で集中心を養い、煩悩に揺らがぬような心身を培えば、
人を苦しめるばかりな煩欲から脱することも出来ようと。
あくまでも心を静めるための瞑想や座禅は奨励されていて。
それを指導する身がこなせなくては、
説法する資格がないとか手本にならぬとでも思うブッダであるらしく。
とはいえ、

 「またそんなことを云う。」

有給休暇中でもそんなことを思うほど
こうまで気真面目で勤勉な尊が、
そんな風に いわゆる堕落とかしちゃうわけないでしょうにと。
イエスとしては またもや呆れるばかりなのもしようがない。
人間はよほど手綱を染めていないとすぐにも堕落すると言わんばかりに、
選りにも選って最初に解脱した存在が、
最も様々な苦行を一通り乗り越えることで
“それだけでもいかん”という実証付きで目覚めた自身に対して
警戒し、恐れていようとは。

 「教義の問題へだったらば、
  無責任にも“肩の力を抜け”とか言うつもりはないけれど。
  キミを貶めるような言いようは、
  私、キミ自身の言でもそのまま飲むわけにはいかないよ?」

私は非力でいろんなハードルも低いけど、
それでもあのね?

 「キミのこと守りたいって気持ちは誰にも負けないんだから。」
 「イエス…?」

何だか主旨が逸れてないかいと、
話が大仰な展開になりつつあるのへは さすがに怪訝に感じたか、
項垂れかけてた顔を上げ、
ちょっと待ってとストップを掛けんとした如来様だったのへ、

 「魔物や魔性からの護衛に関しては
  明王さんたちや天部さんたちに到底敵わないけど。
  キミ自身が自分で自分を追いつめてしまうところへは、
  せめて私が立ちはだかって諭すんだから。」

 「あ…。/////////」

そう。
イエスがこの素晴らしい最聖人へと傾倒したのは、
類のないほど聡明で 懐ろ深い慈愛にあふれ、
匂い立つような麗しさの根源に輝かしい品格を据え、
不殺生の掟を守っていつつ、
人を惑わすものへは毅然と立ち向かう意思の強さも合わせ持つ、
その素養の頼もしさへだが。
そこからもっと深い恋情を抱いた切っ掛けになったのは、
まだ足りぬと思うてか天界でも厳しい修行や果てのない勉強に勤しむ姿が、
尊敬を集めつつも孤高の君でもあるようにも思えてならず、
それが時に危うく思えたからに他ならぬ。
間違いをただすのではなく、責めるわけでもないけれど、
キミの厳しさからキミ自身を誰が守るの?と
それへ気づいてからはもう、居ても立ってもいられなくなったから…。
剛の強さをしっかと保つキミには到底かなわない自分だけれど、
これに関しては しょうがないなぁという意味合いでの慈愛や許容なんて構えたりしない。
どんな罪も許す私が 徹底抗戦だって構える所存だからと。
そうともなれば…庇護対象でありながら同時に敵でもある存在になるというに、
そんなブッダへ 任せてネとの自信満々、
釈迦牟尼様にだけそう見えるらしい(…)精悍な表情にて
笑って見せるイエスだったのだけれども。

 「だから…えっとあのね?//////」

ああ、なんて眩しいお顔をするのぉと、
一瞬たじろぐように背中を伸ばしたまま後ろへのけぞりかかったブッダの側の様子が、
これまた微妙におかしい。
このくらいの思い込み、多少ぶれてる部分も汲み取った上で
そこまで想ってくれてありがとうと、青い情熱ごと受け入れるかと思いきや、
ぶれてるところが肌に合わぬとでも言いたいか、
もじょりと口ごもるところが彼らしくなくて、反応的に不整合だというか…。

 「…ブッダ?」

やっぱり私ではアテには出来ないの?
偉そうに言われてもねぇとか、そんな重いことその痩せた肩で担がないでとか思った?
却って負担が増えちゃうからやめてとか思ったの?と
そりゃあもうもうたくさんの想いを浮かべたまま
ブッダが愛してやまぬ玻璃の双眸が、
今にも絶望の乾きに閉ざされるか、
はたまた悲しみの泉に溺れるかしそうになったのへ、

 「あああ、ちがっ、違うのイエス、そうじゃなくてっ!」

気がつかなくてどうしますかと、
大慌てで 彼の側からもすがるように身を乗り出して見せ、
気をしっかり持ってと訴えかけたものの。
そこはやっぱり、聡明で機転も利き、人の機微にも通じておいでの
浄土界の知慧の真珠と謳われておいでの如来様。
話の順番というか、イエスがそうまで悲痛な顔になったのは そもどうしてかにも
そりゃあ素早く立ち戻られて。

 「えっと、だから、あのその…。////////」

切実さの色合いが…真摯な負けないでという代物から、
じわじわじわりと含羞みの色合いもたっぷりとした、恥じらいのそれへと塗り替わり。

 「…ぶっだ?」

今度はイエスの側が“キミこそどうしたの”と、
案じてしまいつつ…間近へ寄って来てくれた、
やわらかで瑞々しい水蜜桃みたいな頬へ手を伏せれば。

 「だから、あのあの。///////」

ああもう、こんな時にこんなコトするなんてと、
長い睫毛を戸惑うように震わせ、その頬をかぁっと緋色に染めつつも。
嫌ではないのだろう、
逃げるどころか自身からもそおと押し付けてきつつ囁いたのが。

 このごろの私はイエスのことで頭も胸の内もいっぱいだから、
 ちゃんとあのその切り替えが出来るのかなぁって//////

 おお。//////////

思い切っての発言へ、いや〜っとお顔を両手で覆ってしまう如来様だったのへ、
なんでこうも、可愛らしいことをばかり云ってくれるのかと、
イエスもあらためて撃沈の朝だったそうな。







   〜Fine〜  15.11.21.


 *これが直前のお話の後日談というのは詐欺でしょうか。
  (朝チュン話になるかもとか書いといて…)

  …という話を構えていたら、
  新刊の中にそういうネタが入っててびっくりしたぁ。
  いや、相手は公式様なんだし、そこへと文句が言いたいわけじゃなくて
  以前に(確かボウリングのお話で)出て来たので、
  もう触れないかなと油断してました。
  (そうか、これが
  「父さんにもできるぞ」アップルウォッチ ネタが入ってたお話だったのか。)

  その新刊への感想はあまりに早すぎるネタバレになるので
  もちょっと我慢しますね。
  あああ、これがああでとか、こんな展開になろうとはとか
  相槌求むな 語り合いたいネタは山ほどあるんだけどvv


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